埼玉県・裏ステージ「首都圏外郭放水路」をめぐる
非常に私的な出だしである。
幼いころに観ていた『仮面ライダー555(ファイズ)』。
その最終回に現れた謎の空間。
それは辺り一面コンクリートでつくられた広大な空洞。
神殿を思わせる地面と天井をつなぐ柱の数々。
あまりに異質な光景は頭に焼き付くも、
記憶の奥底に仕舞われて長らく忘れ去っていた。
光景の正体は大雨など川の増水時に、
洪水を防ぐために水を逃がすために建造された首都圏外郭放水路。
場所は埼玉県春日部市に位置している。
柱がたくさん連なる空間は「調圧水槽」。
河川から引いてきた水の勢いを調節する役割があるという。
今回は以前から訪れてみたいと思っていたスポットに訪れたので感想を記載する。
意外に簡単に行ける!? 神殿への道のり
首都圏外郭放水路を管理する機関が拠点に置く庄和排水機場。
その施設のなかに地底探検ミュージアム 龍Q館は存在する。
ここは地下神殿のことを世間に発信するための博物館だ。
見学会もこちらの職員が主催しており、ホームページから予約を申し込めば
簡単に見に行くことができる。
今回選んだのは地下神殿「調圧水槽」と巨大竪穴「第1立坑」の
ロケーションを2本立てで楽しめるという地下神殿コース。
コースは他にも排水の為のポンプをメインに据えたポンプコースや
(リピーターに受けそうなニッチな企画だ)
巨大竪穴「第1立坑」にヘルメットとハーネスを装備して、
奥まで見に行けるという立抗体験コースがあり、これがまた魅力的。
ただし予約サイトのカレンダーにはオーソドックスな地下神殿コースばかりで
他コースの開催日はかなり少ない。というよりポンプコースはまだいいが、
スリルいっぱいで楽しそうな立抗体験コースが催される日が皆無!
(確認できるスケジュール範囲内において)
たまたまこの記事を書いているときの話なので、
ふとしたタイミングで予約の募集が始まるのだろう。
レアリティが上がると変に好奇心が刺激される(笑)
ロケ地としては絶対に一度は利用したい場所
龍Q館の2階。
受付所までの通路の壁には掲げられた2019年の邦画を代表する迷作のひとつ。
実写版『翔んで埼玉』のポスターが当然のように鎮座。
映画は埼玉県には見どころがないという俗説を題材にサイタマをディスりまくり
逆に埼玉県への愛を推しだしたことで記憶に刻んだ危険な作品だ。
でもですよ。調圧水槽がある時点で勝ち組都道府県だと思いません?
この地下神殿の特異的な景観は日本の中でも唯一無二。
それゆえに映像業界人ならば一度はここを活用したフィルムを作ってみたいんじゃないかと考えるのは邪推でしょうか。
脇の年表にはこれまでロケ地として、
どんな映像作品に登場してきたかを紹介する一覧が掲示されている。
自分が知っている作品はあとは『魍魎の匣』ぐらいかな…。
しかし特撮作品でのロケ地としての使用回数の多さは(特に仮面ライダーシリーズ)
非日常な光景を演出できる場所として重宝されている気がする。
日本映画界をけん引する様々な著名人のサイン色紙を拝むことができる。
「ロケ地として最強の素材」これだけでも地下神殿の魅力は埼玉の強い武器だ。
あんな人やこんな人。この場所が映像業界において十分認知されていることが伺える。
まだまだ観光地としては知名度が高くない地下神殿であるが、いずれ何かしらのきっかけでバズり、観光客が怒涛の洪水のごとく押し寄せるのは想像に難くない。
「あの映画の強烈に印象に残った場所を見に行くことができるんだ」
という認識が広がっていくことだろう。
自分でも前日予約でも普通に間に合ったので、興味があるなら今のうちに行っておくのがチャンスだ。
いざ地下神殿へ
地下への行き方はガイドの人を先導にして、狭い階段を降りていく。
なお、観光地ではないのでエレベーターという文明の機器はない。
もちろん安全面を配慮してなのだろう。
『自力で』階段を降りれる人だけが行くことができますよと、
何度か強調してくるガイドの人の注意勧告が妙に印象に残る。
階段を降りきった先に広がる光景は...。
広い...。ただひたすらに広大なコンクリートの世界が広がっていた。
控えめな照明の明かりで照らされる無機質な柱と壁。
それが地下神殿と呼ばれる由来である神秘的なオーラを漂わせていた。
柱の群れと隣接する巨大な穴「第1立抗」が、これまた異様な存在感を出す。
ロープと柵で近づくことができないようになっているが、
落ちたら運良くて大けがで済む、といえる高さの落とし穴になっている。
世の中には巨象恐怖症なる恐怖症を抱える人たちがいるという。
字のごとく大きな銅像・建造物などを見ると不安や恐怖感を掻き立てられるというものだ。
そうした人にとってはキツイ空間に違いない。
地下は気温が低く肌寒い。暑くなる季節に訪れるときも、
なにか羽織るものを持参するといいかもしれない。
調圧水槽の見学が終わると、下ってきた階段を再度上り、
場所は移って第1立抗を見下ろすことができるスポットに。
足場は建築現場で見かけるような薄めの鉄板なのがスリルを誘う。
これが第1立抗をメインに周る「立抗体験コース」ならば、
さらに奥まで迫ることができるらしいのだが、
今回はこのアングルのみで迫力を堪能することとなった。
見学のプログラムは以上である。
見学会に来ていた人たちには中国系と思しき外国の家族が2組ほどいた。
午前中の回に参加している人達にも同様の家族らしき集団を見たので、
向こうの人にとって、龍Q館はけっこう知られた観光名所なのかもしれない。
自分なんかが見に来た動機としては「なんとなく」という、
それ以上・以下でもない感情が主に占めるが、この家族連れたちは
旅行会社が手配する観光バスに乗ってくるツアー客というわけでなく、
自分たちで市バスを使ってわざわざ訪れるのだから、
それはある程度の強い熱意がなければできる行動ではないと思った。
繰り返しになるが、
映画『翔んで埼玉』では見どころない県として自虐されているが、
潜在的な観光資源として地下神殿は有効だと思うし、
大きな脚光を浴びる日も近いはずだと考える。